誰が何に接続するのか、設定を誰に任せるのかを決める
社内NASに入りたいなら社内への接続経路、SaaSの利用元を制限したいなら固定IP、社員を管理したいなら個別アカウントが必要です。まずこの3つを分けると、不要な長期契約や機器購入を減らせます。
社内にIT担当者がいない会社には、既存ルーターの保守会社への相談か、導入支援付きの管理サービスを勧めます。社内のPC・サーバーを管理できる人がいるなら、Tailscaleで限定した接続から試す方法もあります。
個人向けVPNの「同時接続台数」や「台数無制限」を、そのまま社員数分の契約として数えないでください。必要なのは台数だけでなく、誰が何に入れるかを管理し、退職者のアクセスを止められることです。
自社の業務にVPNが必要か確認する
| 会社の状況 | 最初に行うこと |
|---|---|
| 自宅から社内NASや業務サーバーを使いたい | 対象を限定し、会社側の機器と接続経路を確認する |
| SaaSに会社の固定IPからだけ接続したい | SaaSのIP制限機能と、専用IPの契約条件を確認する |
| Microsoft 365などのクラウドだけで仕事が完結 | 社内LANへの接続が本当に必要か確認し、IDと端末の管理を先に整える |
| 既存VPNが遅い・頻繁に切れる | 利用時間・人数・回線・対象アプリを記録し、原因を切り分けてから増設を判断する |
例えば「見積書を自宅で確認したい」という依頼でも、社内NASを直接使う方法と、承認済みのクラウド保管先で共有する方法があります。どちらが業務に合うかを決めてからVPNを選びましょう。ファイルを個人アカウントのクラウドへ勝手に移すことは、この代替策に含みません。
最初の対象は「経理担当2人が、経理用の共有フォルダーを使う」のように狭くします。「全社員が社内のすべてに接続できる」を初期設定にする必要はありません。
小規模企業が選びやすい3つの導入方法
1.既存のVPNルーターと保守契約を使う
保守会社が機器を把握しているなら、型番、契約、現在の利用人数を伝えて相談します。追加ライセンスの要否、同時接続時の性能、更新の提供状況、認証方式を確認してください。既存設備が使える場合は、移行作業を抑えられます。
2.NordLayerなどの管理サービスを使う
組織のアカウントやチームを管理し、固定IPを経由して接続したい場合に候補です。NordLayerのCoreとPremiumには専用IPサーバー料金が別途必要で、社内拠点をつなぐ機能にもプラン差があります。会社側の設定を含む見積もりを依頼します。公式プラン表で、必要機能が対象プランに入ることを確認してください。
3.Tailscaleで必要な端末・サーバーをつなぐ
管理できるPCやサーバーから小さく始めたい場合の候補です。直接導入できないNASなどには、社内ネットワークへの中継役となるsubnet routerを置く方法があります。常時稼働する端末と、経路・アクセス許可の設定が必要です。公式の構成手順に沿って検討します。
社内Webアプリ中心のCloudflare Oneや、自社構築のSoftEther VPNも含めた比較は法人VPN4サービス比較にまとめています。運用担当者がいない状態で、自社構築だけを安さの理由で選ぶことは勧めません。
社員5人、10人で使うと月にいくらかかる?
以下は2026年9月10日確認の公式表示を使ったライセンス部分の計算例です。同じ機能を同じ条件で導入した見積もりではありません。税金、為替・決済手数料、会社側の機器、設定代行、保守費用は含みません。
| 構成例 | 5人の月額相当 | 10人の月額相当 | 計算条件 |
|---|---|---|---|
| Tailscale Standard | 40米ドル | 80米ドル | 1ユーザー月8米ドル。中継端末などの費用は別 |
| NordLayer Core+専用IPサーバー1台 | 95米ドル | 150米ドル | 年払いの月額換算11米ドル×人数+40米ドル |
| NordLayer Premium+専用IPサーバー1台 | 110米ドル | 180米ドル | 年払いの月額換算14米ドル×人数+40米ドル |
| 既存VPNルーターの拡張 | 個別見積もり | 個別見積もり | 型番、追加ライセンス、保守契約で変わる |
出典:Tailscaleの料金表、NordLayerの料金表。NordLayerのCore・Premiumは最低5ユーザーです。CoreとPremiumを比べるときは、特にSite-to-Site connectorなど必要な機能の有無を確認します。
NordLayer Coreの5人構成は、月額相当95米ドルを12か月で見ると1,140米ドルです。「月95米ドル」という表示でも、年払いの契約を毎月払いと考えないでください。実際の請求時期・金額は見積書で確認します。
会社の総費用は、この金額に導入作業と継続保守を足して判断します。初期費用が低くても、毎月の設定変更を自社で抱える構成が安いとは限りません。見積もりは同じ人数・接続先・サポート時間で2案を比較することを勧めます。
設定を依頼する会社に伝えておくこと
社内担当者や販売店に、次の項目をまとめて渡します。わからない項目は「未確認」として、調査担当を決めます。
- 目的:誰が、社外から、どの業務を行うか。
- 接続先:NAS・サーバー・SaaSの名前と、利用するアプリ。
- 人数:利用者数、同時利用の見込み、委託先の有無。
- 端末:Windows・Mac・スマートフォン、支給品か私物か。
- 会社側:ルーター型番、回線契約、既存の保守会社。
- 運用:追加・停止を行う人、障害時に連絡する人。
- 費用:初年度総額と、更新後の年間費用の上限。
「社員全員が必要」かは、業務ごとに確認します。社外接続をしない社員まで同じ機能を付ける必要があるとは限りません。一方で、利用者を少なく見積もって共有アカウントを使うのは避けます。
管理者を1人だけに依存させないことも大切です。副担当者を決め、設定の控えと復旧手順を会社の管理下に置きます。管理者のパスワードを全員で共有するのではなく、担当者ごとの管理権限で運用します。
少人数で試してから、ほかの社員にも使ってもらう
- 元に戻せる状態を作る。現行設定と接続先を控え、試験対象と時間帯を決めます。既存の業務接続をすべて切り替える前に、別のテスト用アカウント・データを用意します。
- 認証と接続先を限定する。管理者と一般利用者を分け、多要素認証を設定します。必要なフォルダー・アプリだけを許可します。
- 社外の回線で試す。社内Wi-Fiだけでは在宅勤務の確認になりません。モバイル回線などから、テスト用ファイルの閲覧やテスト画面の表示を試します。
- 入れないことも試す。権限外の接続先、停止済みアカウント、未承認端末の扱いを確認します。
- 担当部署から広げる。確認済みの設定と短い利用手順を配布し、問い合わせを記録してから次の部署へ広げます。
速度は回線速度の数字だけで判断しません。普段使うアプリの起動、テストファイルの表示、スリープ復帰後の再接続を、同じ時間帯・同じ回線で比較します。部署ごとの権限が異なるなら、それぞれで試験が必要です。
社員に渡す手順は、社内システムへのVPN接続方法を参考に、自社のアプリ名と連絡先を入れて作成してください。
社員が辞めたときや、接続できなくなったときに備える
導入日の接続成功だけで完了にせず、「社員が辞めた日」「端末を紛失した日」「担当者が休みの日」に対応できる状態まで整えます。
| 場面 | 用意する手順 |
|---|---|
| 入社・異動 | 承認者を決め、必要な部署の権限のみ付ける |
| 退職・委託終了 | ID・端末・残存セッションを確認し、VPNと業務アプリ双方の権限を停止する |
| 端末の紛失 | 連絡先を一本化し、対象端末の接続停止と会社の端末管理手順を実行する |
| 機器・ソフトの更新 | 担当者、確認頻度、作業時間帯、更新失敗時の復旧方法を決める |
| 接続障害 | 全員か一部か、認証前か接続後かを分け、ログと発生時刻を添えて問い合わせる |
導入時にまとめた利用者や機器の一覧は、その後も更新しておきます。契約を更新する前に、今使っている人数とアカウントを確かめ、不要な追加機能がないかも見直しましょう。
IT担当者がいなければ、設定と保守も含めて相談する
専任担当者がいない会社は、まず現在のネットワーク保守会社に相談し、導入支援込みの案と比較してください。担当者がいて接続先が少ない会社は、Tailscaleなどで限定した試験から始められます。固定IPや組織管理をまとめたい場合は、NordLayerの必要プランと会社側の設定を同時に見積もります。
まず「自宅から社内の見積書を開きたい」のように、社外で行いたい仕事を決めてください。利用する人数と会社にある機器を伝えれば、設定や保守を含めていくらかかるか相談できます。
