法人VPNは「何につなぐか」で選ぶ
社内のNASや業務サーバーにつなぐなら、会社側のネットワークまで接続でき、社員ごとの権限を管理できるサービスを選びます。一般向けVPNのアプリを社員に配るだけでは、社内LANへの入口はできません。
候補を絞るなら、管理サービスをまとめたい会社はNordLayer、端末・サーバー間の接続を作りたい会社はTailscale、社内Webアプリへのアクセスを絞りたい会社はCloudflare One、サーバーを自社で保守できる会社はSoftEther VPNです。この記事では、従来型VPNの代替になるアクセス制御サービスも含めて比較します。
既に保守契約付きのVPNルーターがある場合は、まず販売・保守会社に増設費用と更新状況を確認してください。社員が数人増えるだけなら、既存環境の調整で済む可能性があります。
NordVPNの個人向けプランを契約しても、NordLayerの社員管理や社内接続機能は付いてきません。専用IPを追加しても、それだけで社内NASに入れるわけではありません。公式のサービス比較でも用途が区別されています。
何に接続するかによって、必要な仕組みは変わる
| やりたいこと | 必要な仕組み | 契約前に確認する点 |
|---|---|---|
| 自宅から社内NASを開く | 社内へ到達する経路と、NAS側の利用権限 | 社内側の接続機器・中継端末、DNS、許可するポート |
| SaaSを会社の固定IPから使う | 専用の出口IPとSaaS側のIP制限 | SaaSがIP制限に対応するか、専用IPの追加料金 |
| 社内Webアプリだけを使わせる | アプリ単位の認証・許可設定 | 利用者のID、アプリのURL、認証連携 |
| 本社と支店のネットワークを結ぶ | 拠点間トンネルと両拠点の経路設定 | 対応機器、アドレスの重複、保守・障害時の切り替え |
固定IPは「接続元を限定する目印」です。社内に通信を届ける経路や、社員の本人確認を代わりに作る機能ではありません。また、VPNにつながることと、業務アプリにログインできることも別です。
Microsoft 365などのクラウドサービスだけで業務が完結しているなら、社内LANに戻す必要があるかを先に見直します。多要素認証、利用端末の制限、アカウント管理を整えることで目的を満たせる場合があるためです。
法人向け4サービスの比較表
社内のどの機器やアプリを使うのか、設定や保守を誰が担当するのかを決めてから候補を絞ります。下の表では、それぞれのサービスがどのような会社に向くかを説明しています。速度を実測したランキングではありません。
| 候補 | 向く用途 | 会社側に必要な準備 | 費用の見方 |
|---|---|---|---|
| NordLayer | 社員管理とインターネットへの接続制御をまとめる | 組織・チーム・認証の設定。社内接続は対応プランと拠点側の構成を別途確認 | ユーザー料金、最低人数、専用IPサーバー、追加機能 |
| Tailscale | 会社のPC・サーバー・NASへの接続 | 端末への導入、または社内側のsubnet routerとアクセス許可 | 組織向けプランのユーザー料金と中継端末の維持費 |
| Cloudflare One | 社内Webアプリを利用者ごとに公開する | Accessの許可ルールと、Tunnelなどの接続経路 | 利用人数、ログ保持、サポートなど必要な契約条件 |
| SoftEther VPN | 自社でVPNサーバーを構築・運用する | サーバー、ネットワーク設定、認証・証明書管理、継続保守 | ソフトのライセンス料以外に機器・回線・保守工数 |
製品の位置づけは、NordLayerのリモートアクセス、Tailscaleのsubnet router、Cloudflare Tunnel、SoftEther VPNの機能一覧を参照しています。
NordLayerは社員ごとの管理や固定IPでの接続に使える
NordLayerを検討するなら、「外出先の通信保護」「固定IP経由のSaaS接続」「社内ネットワークへの接続」のどこまで必要かを見積依頼に書きます。安いプランを選んでから社内接続の方法を探す順番は避けましょう。
2026年9月10日確認の公式料金表では、Liteは年払いの月額換算で1ユーザー8米ドル、Coreは11米ドル、Premiumは14米ドルで、いずれも最低5ユーザーです。CoreとPremiumは専用IPサーバーが月40米ドル別途必要と表示されています。税金は別途で、月払いとは条件が異なります。
Coreの専用IPを使う構成と、PremiumのSite-to-Site connectorを使う構成は区別してください。社内LANをつなぐ提案であれば、拠点側の対応機器、設定作業の担当、必要なプランを含む構成図を販売元に出してもらいます。
会社側の設定をする人が決まっていなければ、ライセンス代だけでなく設定作業も含めて見積もりを依頼してください。「社員10人で社内NAS1台を使いたい。ルーターの型番は○○」のように伝えると、必要な構成を相談しやすくなります。
Tailscaleは会社のPCやサーバーにつなぐ場合に向く
会社PCと業務サーバーに導入できるなら、Tailscaleで必要な端末同士の接続を作る方法が候補です。アプリを入れられないNASや機器は、社内にsubnet routerという中継役を設置する構成を検討します。
ただし、中継役を設置しても社内全体を一律に許可してはいけません。「営業担当は営業用サーバーの必要なサービスだけ」「管理者は管理用ポートも許可」のように、利用者と接続先を対応させます。経路の承認とアクセス許可の設定は別々に確認してください。詳細は公式のsubnet router手順で確認できます。
公式料金表の組織向けStandardは1ユーザー月8米ドルです。Personalは個人向けとして案内されているため、会社の人数が少ないという理由だけで無料枠を前提に見積もりません。必要な権限管理・ログ・サポート条件もプラン表で確認します。
試験導入では、社外回線から業務用のテストファイルを開けることに加えて、権限のない部署のファイルを開けないこと、中継端末の再起動後に復旧することを確認します。常時稼働する中継端末には、更新と障害対応の担当者も必要です。
Cloudflare OneとSoftEther VPNを選ぶ条件
社内Webアプリが中心ならCloudflare One
勤怠や社内ポータルなど、ブラウザで使うアプリを利用者ごとに制限したい場合は、Cloudflare AccessとTunnelの構成が候補になります。従来の「VPNに入ったら社内ネットワークが広く見える」構成から、アプリごとに許可する設計へ変えたい会社に向く選択肢です。
Tunnelは接続経路を作る機能です。トンネルを作っただけで社員認証が付くと考えず、公開前にAccessの許可ルールを設定し、未ログイン者や社外アカウントが通れないことを試験します。NASのファイル共有や特殊な業務アプリはWebアプリと同じ手順では扱えないため、必要なクライアントとネットワーク構成を分けて設計します。公式のアプリ公開・Access設定手順を起点にしてください。
保守できる担当者がいるならSoftEther VPN
SoftEther VPNは、VPNサーバーを自社で構築できるオープンソースの選択肢です。既存サーバーやネットワークの制約に合わせて設定したい会社に向きます。公式機能一覧で接続方式を確認できます。
ソフトウェアのライセンス料が無料でも、運用まで無料にはなりません。OSとVPNソフトの更新、証明書の期限、接続ログ、バックアップ、故障時の復旧を担当する人が必要です。その担当者がいない会社には、保守を委託するか管理サービスを選ぶ方を勧めます。
見積もり前にそろえる7つの条件
- 接続先:NAS、社内Web、RDP、SaaSを分け、URL・サーバー・必要なサービスを一覧にする。
- 利用者:社員、委託先、管理者の人数と、部署ごとの権限を決める。
- 端末:会社支給か私物か、OS、管理アプリの有無、紛失時の停止方法をそろえる。
- 認証:会社のIDとの連携、多要素認証、退職者の停止手順を確認する。
- ネットワーク:会社側の機器、アドレス帯、DNS、二重回線の有無を確認する。
- 記録:誰のどの接続を何日残すか、検索・書き出し・閲覧担当を決める。
- 運用費:ライセンスだけでなく導入作業、保守、障害対応、契約更新を含める。
「同時接続10台」は「社員10人分の法人管理」と同じ意味ではありません。共通アカウントを配ると、退職者だけを止める作業や利用者の追跡が難しくなります。見積もりは社員ごとのアカウントで取り、契約上の利用範囲も確認します。
また、VPNの導入だけで社内のセキュリティ要件が完了するわけではありません。端末の更新やアプリ側の権限、バックアップも別に維持します。暗号化方式の名前だけで選ぶより、日々の管理を実行できるかを重視してください。
まず少人数で試し、使える範囲が正しいか確認する
最初は管理者と一般社員のテスト用アカウントを使い、1つの業務システムで試します。全員の接続先を一度に切り替えると、問題が権限・DNS・回線のどこにあるか追いにくくなります。
| 試す項目 | 合格の目安 |
|---|---|
| 自宅・モバイル回線からの接続 | 許可されたテスト用ファイルや画面を開ける |
| 権限外のシステム | 一般社員のアカウントで管理画面を開けない |
| アカウント・端末の停止 | 停止後の再接続と残存セッションの扱いを確認できる |
| 切断・再接続 | スリープ復帰や回線切り替え後の挙動が説明できる |
| 記録と復旧 | 試験時の接続をログで特定でき、元の経路へ戻せる |
使いたい機器やアプリを一覧にし、同じ条件で2社に見積もりを依頼すると比較しやすくなります。少人数の会社での費用や設定の進め方は中小企業にVPNを導入する方法、既に導入済みの場合の社員向け手順は社内システムにVPNで接続する方法で説明しています。
